消防の水難救助訓練

先日、荒川沿いの某所にて、戸田市消防署と合同による、蕨市消防本部の水難訓練があり、見学させていただきました。
なかなか貴重な体験でした。

 

ボートの種類

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この種の、水害時のボート、蕨市消防本部は、3艇持っているそうです。
2挺がゴム製で、1艇がアルミ製。
その他に、荒川左岸水害予防組合のボートで、蕨市内に設置されており、事実上、自由に使えるようなものが2艇あるとのことです。

 

ゴム製とアルミ製と、おそらく、性能はそれぞれ一長一短なのかと。
ゴム製の方が軽くて使い勝手が良さそうですが、泥水の下に隠れたガレキが突き刺さって壊れたら、即使えなくなります。ゴム製と言っても、人が乗る、内側の底の部分にはアルミ板を敷くので、ぐらぐら揺れて乗り心地が不安定なわけではありません。

オールを使っての手漕ぎ式としても、船外エンジンを付けてのエンジン式としても使うことが可能です。
エンジンは、混合式の2stのものと4stのものがありました。

馬力は、2stのものが、4馬力(と言っていたような、たぶん)。
4馬力というと、インジェクション式の最新のスーパーカブ50(4st シングルエンジン)が3.7馬力なので、だいたい同じくらいです。

見るからにしっかりがっしりとした造りで、海に遊びに行ってプカプカ浮かぶようなものとか全く違います。

 

このボート、金額は幾らくらいするのだろうか?

アキレス株式会社 : 水難救助ボート
JOYCRAFT : JEF-425
エンジン無し、6人乗りのもの(エンジンは別売り)が、50~70万円くらいですね。

エンジンは、
ヤマハ発動機株式会社 : F2B
本田技研工業株式会社 : BF2
だいたい12~14万円くらいですね。

合わせて、定価ベースで60~80万といったところです。

 

ボートの訓練

まずは手漕ぎ訓練。

6人が乗り込んで、内2人が、左右ぞれぞれでオールを持って漕ぐ。
理屈の上では、風がなく、水の流れも無いものと仮定すれば、左右まったく同じように漕げばまっすぐ進むはずですが、これがとても難しいようです。
左右に大きく蛇行し、岸から見ていると、「遊んでいるのかな?」、「ふざけているのかな?」と思ってしまうくらい、まったくまっすぐ進めない。

次いで、船外エンジンを設置して、モーターボート訓練。

上記のヤマハとホンダのwebサイトに掲載されいているような形のエンジンを、ボートの後部のアルミ板にクランプで締め付けて固定します。それほど重いものでもないようですが、頭が重くて不安定な形なので、3,4人で持ち上げてセットすることになります。運転はもちろん免許が必要です。

こちらは、私も乗せてもらいました。
6人乗りの小さなゴムボートとは言え、それなりの安定感があり、風も波もないこの日は、静止状態においては、左右にぐらぐら揺れるようなことはありませんでした。

走ると、水面が近いので、若干怖い感じはします。
他のボートの波に当たると、ちょっと揺れます。

 

実際に蕨市内で使う災害時には、大雨・大風の中で使うケースはありうると思いますが、高波が発生するような状況は考えにくいと思います。

船外エンジンは、水面の下に沈み込む部分が、けっこうな高さがあるため、水底に接触しないように使うためには、ある程度の水の深さがあることが前提となります。
ざっくり1mくらいでしょうか。

荒川上流河川事務所 : 明治43年の洪水

明治43年に荒川の堤防が決壊して、蕨市内全域が水没する大災害があり、その時は、地元の古老によると3尺(90cm)の水の深さがあったと聞いたことがあります。

このくらいの2,3百年に1回クラスの水害時にしか、モーターボートとして使うことはでき無さそうです。
しかも、この種の災害時には、泥水の中でどんなガレキが沈んでいるかもわからないので、エンジンを使うことは現実的には難しそうです。

 

救命索発射銃による救難訓練

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ロープを発射する銃式の投擲マシンです。
川の中洲や、湖の中央部などに取り残された人までロープを投げ、ロープを伝って助ける、という仕組みです。

Navarまとめ : 【1999年】神奈川県山北町・玄倉川水難事故(DQNの川流れ)まとめ

台風で増水した中洲に取り残されたファミリーが、必死で救助しようとする消防、警察、地元の方々に向かって、暴言を吐き続ける映像で有名なこの事故で用いられたのが、この道具です。

尚、戸田市のものは圧縮ガス式で、蕨市のものは火薬式とのことでした。

この映像の2:00以降に出てきますが、このマシンで細いロープを投げ渡し、その後で、救助用の太いロープをセットして助ける、という使い方をするようです。

実際のところ、蕨市内であれば、ほとんど出動の機会はなさそうですね。

 

この他、戸田市は市域に荒川を含んでいるため、潜水チームも持っているそうで、その道具も見せてもらいました。

 

 

考察

・小さな2~4人乗りくらいの遊び用ゴムボートは、救助には向いていない。6人乗りの救助用ボートが、高くても必要。

前述のような、2~3百年に1度クラスの荒川決壊が発災した場合には、市内全域が短時間に水没する可能性がある。
この時に、自宅などに取り残された人を、避難所にどうやって運ぶかが重要。

市内全域が同時に発災し、しかもこの場合には、埼玉県南部の市町村は同時に被害に遭うので、市外からの応援が来てくれることも期待しにくい。

そこで、各消防団、町会などに、大量に安いゴムボートを備えさせればいいのではないか?と考えていた。

 

このくらいの、レジャー用のものならば、4万円くらいで売っている。

 

しかし、このクラスのレジャー用ボートは、よほど良い条件が揃わないと、救助に使うのは難しいかもしれない。
救助中にボートが転覆してしまったりしたら、二次災害の原因にもなりかねない。

6人乗りクラスの救助用のボートですら揺れるとちょっと怖く感じたくらいなので、大雨・大風の中、子供・高齢者・障害者などを運ばなくてはならない状況を想定したら、6人乗りクラスの救助用の、床がアルミ板で作られているような安定した作りのものが、たとえ50~70万円くらいしたとしても、必要かも。

 

・蕨市内ならば、ボート用の船外エンジンはあまり使い道がない。

荒川決壊における想定される水深を1mくらいと仮定すると、ボートの船外エンジンを使えるのは、そのくらいの水深のワーストケースに限られるようだ。
この場合も、水は濁った泥水で、流木やがぷかぷか浮かび、水の中にはどんなガレキがあるかもわからないような状況で、エンジンを使うのはためらわれる。

大雨・大風が止んだ後で、1m以上浸水した道路上で、既にガレキがないことが確認済みの状況など、好条件が揃ったケースしか、船外エンジンは使い道はないかもしれない。

消防本部で想定している使い方は、内水災害(ゲリラ豪雨による都市型水害)や外水氾濫の初期において、消防士はボートに乗らず、ロープでボートを引っ張って濡れながら水の中を歩き、要救助者をボートに乗せて避難所まで連れて行く、というもののようだ。

 

 

・救助用ボートの数を増やせばいいというものでもないかも。

6人乗りの救難ボートであれば、消防士は2,3人が乗り込んで(あるいは濡れながらロープで引っ張って)、一回で3.4人を運ぶ、という使い方になろうかと思う。
この場合、ボートに乗る地点(要避難者の自宅など)で、要避難者が乗るのをサポートするスタッフが2,3人、ボートを降りる地点でも同様にサポートスタッフが2,3人必要である。
バックアップを入れると、一つのボートを運営するのに15人程度は必要かと思う。

大量にボートを買い揃えたからと言って、スタッフの数が揃わなかったら意味がない。

また、消防本部としては、消防団員にはボートに乗り込むのではなく、ボートの乗り降りのサポートなどの行程をお願いしたい、という考えを持っているようだが、これは理に適っていると思う。

(※ 消防士は、プロのいわゆる消防士さんのこと。消防団は、ボランティアです。)

 

 

 

今後は、ちょっと他市の事例を調べてみたいですね。


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