先進的な放課後・休日教室を行なっていて実績を上げている、杉並区立 和田中学校に視察(見学)に行って来ました。
杉並区立 和田中学校の正面玄関蕨市議会議員有志3名により、行って参りました。3名それぞれ別の会派(1名は無所属)のメンバーです。移動(電車の交通費)、先方へのお土産お菓子代の分担については、私は私費負担でした。(他のお二人についてはお聞きしていませんので不明です)
先方の杉並区、和田中とは、議会事務局に調整してもらいましたので、有志視察とはいえ、市職員の人件コストが発生しています。
和田中の環境
杉並区に所在し、最寄り駅は丸ノ内線の東高円寺駅です。
この駅、私は初めて下りましたが、一人暮らしの若者、昔から住む旧住民のファミリー、新しくマンションを買って引っ越してきた所得の高い新住民のファミリーが混在する、落ち着いた中央線沿線カルチャーの街、といったイメージです。
中野、高円寺、阿佐ヶ谷といった駅周辺と比べると、駅前の商店街は規模が小さく、駅のすぐ近くから住宅街が広がっています。
和田中は最寄りの東高円寺駅から徒歩15分かかりますので、駅付近と比べると学校付近にはマンション・アパート類は少なく、落ち着いた古くからの住宅街が広がっています。「山の手ではないが、下町でもない」といったところでしょうか。
和田中校舎からの街並み。
和田中の試み
・民間人校長
校長が民間人です。任期制であり、今の民間人校長は2代目です。
初代、2代目ともにその道で高い実績を上げてきた方で、私も前からお名前は知っていましたし、言わば「話題性のある有名人」です。
・校長が、地域本部という組織を作る。
後述するような新しい試みをするために、校長がリーダーシップを取って「地域本部」という組織を作りました。この組織は、「地域」の「本部」という名前にとらわれてしまうと、本質を見誤ってしまいます。
その中学校の(建前上は、その地域の)教育を支援することを目的とした、独立した任意団体です。「教育を支援」といっても、これもまた建前であり、「補助」という意味ではなく、あくまでもサービス提供内容は独立したものです。学校の教職員とは密接な情報共有をしていますが、学校の教職員組織の指揮命令系統の下にある訳ではありません。
更に言うと、区から委託された(契約関係にある)訳でもありません。
校長のリーダーシップの下で設立された組織ですが、校長の指揮命令系統の下にある訳でもありません。
・地域本部のメンバー
無償ボランティアによって構成されています。
リタイアした団塊の世代の方々がほとんどのようで、和田中の学区の外から来ている方も多いようです。
・地域本部が主体となって(学校の教職員組織とはまったく別に)、放課後・休日教室を行う。
地域本部自らが主体となっているということは、区や校長あるいは学校教職員組織の指揮命令の下でサービス提供を行なっている訳ではなく、自らの意思決定の下でサービスを行なっている、ということです。
もちろん、生徒や保護者のニーズを組み上げ、区、校長、学校教職員組織とは密接に情報共有をしています。
・地域本部が行う放課後・休日教室の経営責任・管理責任
お金の出入りが発生していますが、ビジネスではないので、利益を生むことを目指しているものではありません。仕入れ・費用は全てコントロールされており、黒字にも赤字にもならない仕組みとなっています。
管理責任は、若干曖昧な部分もありますが、最終的には校長が負うことになるようです。
保険は、地域本部としても入っており、一部は区としても入っています。
放課後・休日教室の内容
主たるサービスは、以下の3つです。
受講者である和田中生徒は、すべてのコースにおいて、受講料を支払います。
案内看板。
(1)ドテラ(土曜寺子屋)
宿題をやったり、苦手科目の克服を目的とした授業です。
講師は、学ボラ(大学生ボランティア)です。
少人数制で、授業の内容企画・運営は全て学ボラに任されています。
学ボラは、教職を目指す大学生・社会人がボランティアベースで担当しています。学ボラにとっては、生徒に教える体験を通して、自らの適性を見極め、スキルを磨きつつ、就職活動の際に体験をアピールすることが出来るというメリットがあります。
(2)英語Sコース
英検合格を目指した英語の授業であり、運営は民間企業に委託しています。
(3)夜スペ
高校受験勉強を目指した勉強の授業であり、こちらも運営は民間の学習塾に委託しています。
夜スペの授業光景。
すでに高校受験の試験期間に入っているため、休み(受験に行っている)
生徒が多いとのことでした。
放課後・休日教室の授業提供を下請けする企業のメリット
それぞれの授業は有料ですが、格安です。
英語塾なり学習塾なりが開設するコースに直接通うよりもかなり安い金額です。企業側の採算がどうなっているかは分かりませんが、おそらく赤字だろうとのこと。
企業側にとっては、地域貢献、広告宣伝の一環として参画しているものと思います。
成果
成功と言えると思います。
定量的なデータはありませんが、
・全生徒の1/3が参加。
・他の学区からの越境入学も増えている。
とのことです。
これら一連の和田中の試みのKFS
・校長のリーダーシップ
なんといってもコレです。
反対意見も山ほどあったようですが、それらを全て振り切り、「何か問題が起こったら全て自分が責任を取る!」と言って、思い切って進めました。
民間人校長じゃないと出来ないのか?と言えば、決してそんなことは無いと思いますが、任期制であり、退任後のキャリア設計をしやすい民間人校長と、事実上転職することが難しく、公立教職員としてのキャリアパスの中にある非民間人(教職の)校長とでは、インセンティブがまったく違いますので、難しいのかもしれませんね。
民間人校長であれば、リスクを取って新しいチャレンジをして、万が一失敗したとしても別に構わない訳です。元々任期が決まっているので、期限が来ればクビになることは成功しようが失敗しようが変わりありません。新しいチャレンジが失敗したとしても、その経験とノウハウが糧となり実績となります。
・地域本部の責任者の人選
今回お話を伺った、現地域本部長は、商社をリタイアした団塊の世代の方でした。生活に余裕があり、ビジネスを回した経験があり、地域本部の仕事に情熱を感じておられます。困難にぶつかろうとも自らの信念を貫くタイプの方とお見受けしました。
「私みたいな、団塊の世代で、既にリタイアしてて、地元のために何かやりたい、という人はたくさんいますよ。」とおっしゃっていましたが、こういう人を探してきて口説いて地域本部の責任者をやってもらうのはとても大変でしょう。
地域本部という、和田中から生まれた制度は、全国の他の公立学校にも広まっているそうです。
逆に、失敗するパターンは、
・学校(教職員組織)が過剰に関与する場合
とのことでした。
また、おそらく同様の理由で、
・行政が過剰に関与する場合
というのもダメパターンかと思料します。
アテンドしてくださった副校長の、「学校経営は、校長次第です」というお言葉が印象的でした。